例えば、日常的に以下のような行動をよくするのではないでしょうか。
- スーパーでお茶を購入する際、有名ブランドの商品を選ぶ
- 最近SNSで話題になったスキンケア商品を購入する
- 「今なら—円」と書かれた商品をお得に感じて購入する
これらは「〇〇ブランドだから品質が良いに違いない」「友達が絶賛していたから良い商品に違いない」「元の値段より安い」みたいな価値観を踏まえて意思決定をしていることと思います。
本当に合理的であれば、成分や機能といった情報を踏まえて判断をしますが、人は最適かはわからないけど、正しそうな回答を素早く出すことをします。
このような(限定合理的な)行動を説明するために、行動経済学ではヒューリスティクスと呼ばれる概念を用います。
ヒューリスティクスとは何か
ヒューリスティクスとは、時間やコストの制約の中で「最適っぽい」解を導くために使用される思考のショートカットです。
ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが提唱した「限定合理性」の概念を背景に、人間が進化の過程で得た合理的な判断方法の一つとされています。
この記事では、ヒューリスティクスの代表的な3つのタイプを具体的な例とともに解説します。
代表性ヒューリスティクス:ステレオタイプの罠
代表性ヒューリスティクスとは、物事を判断する際に「典型的であるかどうか」という基準に依存する傾向を指します。
これは、私たちが日常的に利用するステレオタイプに基づく判断を生み出す要因となります。
例えば、職場で新しいメンバーが「理系の大学出身」と紹介された場合、私たちはその人が論理的で計算に強いといったステレオタイプなイメージを抱きやすいです。
しかし、このような判断は、その人の個性や背景を見逃し、誤解を生む可能性があります。
このヒューリスティクスは迅速な判断を可能にしますが、同時に偏見や誤りをもたらすリスクも高いのです。
想起しやすさヒューリスティクス:記憶の影響を受ける判断
想起しやすさヒューリスティクスは、心に浮かびやすい例や記憶の鮮明さに基づいて判断を下す傾向を指します。
人間は、過去の経験やニュースで目にした情報を重視しやすい特徴があります。
例えば、飛行機事故のニュースを頻繁に見た後は、飛行機での移動が非常に危険だと感じることがあります。
しかし、実際には統計的に見て飛行機は非常に安全な交通手段です。
このヒューリスティクスは、私たちが感情や記憶の鮮烈さに引きずられやすいことを示しています。
係留ヒューリスティクス:最初の情報への執着
係留ヒューリスティクスは、判断を下す際に初期の情報や数値に強く依存し、その後の修正が難しくなる傾向を指します。
これは、ベイズの定理に基づく合理的な判断が妨げられる要因ともなります。
例えば、商品の価格交渉の際に「元の価格が10万円」と提示された場合、それが大幅に割引されても元の価格に引きずられ「お得だ」と思いやすいです。
このヒューリスティクスは、強い印象を持つ初期情報が、その後の判断に与える影響の大きさを示しています。
ヒューリスティクスの進化と課題
ヒューリスティクスは人間の認知システムが持つ二面性と深く関連しています。
一つは直感的な認知システムでもう一つは内省的な認知システムです。
後者では時間も手間もかかるため、日常的判断には安上がりな前者を使うことは進化論的にも妥当のように思われます。
ヒューリスティクスとはその代償のようにも考えられます。
このどちらの認知システムを使うかは対費用効率性で測られるべき問題です。
文明の進化とともに、複雑な計算や革新的な考えも簡単に手に入るようになったために、ヒューリティクスへの依存度は時代と共に変動するものなのでしょう。
まとめ
文明の発展に伴い、計算や判断を助けるツールが普及し、ヒューリスティクスへの依存度は減少しつつあります。
しかし、日常生活やビジネスの現場では依然として重要な役割を果たしており、その利点と限界を理解することが求められています。
ヒューリスティクスを効果的に活用しながら、合理的な意思決定を行うためには、偏見を排除し、統計的根拠に基づいた判断を意識することが重要です。
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